伊予の勇将・戒能通森 ―河野家臣団の興亡と一族の軌跡―

はじめに

本報告書は、日本の戦国時代、伊予国（現在の愛媛県）にその名を刻んだ武将、戒能通森（かいのうみちもり）の生涯を、包括的かつ多角的に解明することを目的とする。一般に、通森は宿敵であった大野利直との合戦における武勇伝で知られているが、それは彼の生涯における一側面に過ぎない。本稿では、彼の出自から、主家である伊予河野氏における地位、彼が指揮した軍事行動の戦略的背景、主家の滅亡に際して見せた忠義と決断、そしてその遺産が後世に与えた影響に至るまで、信頼性の高い史料と郷土史研究の成果を基に、徹底的に掘り下げていく。

戒能通森の生涯を追うことは、単に一人の武将の伝記を記すに留まらない。それは、伊予国の守護大名であった河野氏の権力構造とその衰退の過程、そして戦国という未曾有の激動期を、地方の国衆がいかにして生き抜いたかという、より大きな歴史的文脈を理解するための、極めて貴重な事例研究となる。彼の武勇、忠誠、そして決断の軌跡を通じて、戦国時代の伊予国に生きた人々の姿を立体的に描き出すことを目指す。

第一章：戒能氏の出自と伊予河野家における地位

戒能通森という人物を理解するためには、まず彼が属した「戒能氏」そのものが、伊予国においていかなる存在であったかを知る必要がある。一族の出自と主家・河野氏の中での地位は、通森の行動原理を解き明かす上で不可欠な鍵となる。

第一節：伊予の名門・河野氏の庶流

戒能氏の起源は、伊予国の守護大名として長らく君臨した名門・河野氏に遡る。複数の史料によれば、戒能氏は南北朝時代に河野氏から分出した庶流（一族分家）であったと考えられている 1 。この出自は、戒能氏が単なる在地領主ではなく、守護家と直接的な血縁関係を持つ、家格の高い一族であったことを明確に示している。

その苗字の直接的な由来は史料上不明確であるが、一説には温泉郡道後戒能の地（現在の愛媛県松山市内）に居住したことから、その地名を姓としたと伝えられている 1 。やがて一族は、主命により浮穴郡井内村（現在の東温市）へ移り、この地を拠点とするようになった 2 。

後世に編纂された『河野分限録』などの史料には、戒能氏が浮穴郡において小手ヶ滝城、大熊城、そして鳥屋ヶ森城（史料によっては屋森とも記される）の三つの城を領有する、有力な国衆として記録されている 1 。これは、戒能氏が河野氏の支配領域の中でも、土佐国との国境に近い山間部の要衝を任されるほど、軍事的に重要な存在であったことを物語っている。

第二節：河野家中の重臣としての役割

戒能氏は、その高い家格にふさわしく、河野氏の統治機構において極めて重要な役割を担っていた。室町時代には、主君の命令を奉じて文書を発給する奉行人や、国政を実質的に代行する守護代といった要職を輩出している 1 。特に、河野通之が守護であった時代には、「河野伊豆入道」と称される戒能氏の人物が守護代として権勢を振るい、『築山本』には「此時戒能豆州独り国権を執る」と記されるほど、一族が国政を掌握するほどの勢力を持っていた時期もあったことが示唆されている 1 。

戒能通森自身も、この一族の伝統を継ぎ、主君・河野通直に仕えて家老職を務めたとされ 1 、河野家の精鋭家臣団を指す「河野十八将」の一人にも数えられている 2 。これらの事実は、通森が単なる一城主ではなく、河野家の軍事・政治の中枢に深く関与する人物であったことを意味する。

戒能氏が持つこの「家格」の高さは、通森の生涯を考察する上で決定的に重要である。彼が守護の庶流であり、代々家老職を務める家柄であったという事実は、彼の言動が単独のものではなく、河野家臣団全体に大きな影響を与えるものであったことを示唆する。後述する大野利直との合戦も、単なる局地的な領地争いという側面だけでなく、河野家中枢における有力派閥間の権力闘争という、より大きな政治的文脈の中で捉える必要がある。彼の行動は、常に河野家全体の力学を背景にしていたのである。

第二章：戒能通森の生涯 ― 勇武と忠誠の軌跡

戒能通森は、永正14年（1517年）に生まれ、天正15年（1587年）に没した。彼の生きた71年間は、日本の歴史が中世から近世へと大きく転換する、まさに激動の時代であった。彼の生涯を、当時の伊予国および中央の情勢と重ね合わせることで、その行動の背景がより鮮明に浮かび上がる。

【付属資料】戒能通森関連年表

西暦	和暦	年齢	戒能通森の動向	伊予国の動向	日本中央の動向
1517	永正14	0歳	戒能通運の子として誕生 2 。	河野氏、家臣団の離反や他国の侵攻に苦慮する。	足利将軍家の権威が失墜し、戦国時代が本格化。
1533	天文2	16歳	父・通運と共に大野利直らの攻撃を撃退 2 。	河野家中で内紛や家臣の反乱が頻発する 5 。
1541	天文10	24歳		河野家で後継者問題による内紛（天文伊予の乱）が勃発 6 。
1553	天文22	36歳	大野利直の攻撃を受け、小手ヶ滝城から大熊城へ撤退。奮戦しこれを撃退する 7 。	大野利直が河野氏に反乱 6 。
1573	天正元	56歳		大野直之が長宗我部元親と結び河野氏に反乱 6 。	織田信長が足利義昭を追放し、室町幕府が滅亡。
1575	天正3	58歳		長宗我部元親が土佐を統一。	長篠の戦い。
1582	天正10	65歳		長宗我部元親が阿波を制圧。伊予への侵攻を本格化させる。	本能寺の変。織田信長が死去。
1585	天正13	68歳	豊臣秀吉の四国征伐（天正の陣）に際し、主君・河野通直と共に小早川隆景に降伏 2 。	秀吉軍が伊予に侵攻。河野氏が降伏し、大名としての地位を失う 10 。	豊臣秀吉が関白に就任。
1587	天正15	70歳	主君・河野通直の安芸竹原への移住に随行 2 。
1587	天正15	70歳	伊予に帰郷後、大熊の国木邸にて病没 2 。	主君・河野通直も同年、安芸竹原にて病没 2 。	豊臣秀吉が九州を平定。

第一節：乱世への誕生と家督相続（1517年～）

戒能通森は、永正14年（1517年）、戒能伊賀守通運の子として生を受けた 2 。彼が生まれた頃の伊予国は、守護・河野氏の権威は名目上のものとなりつつあり、国内は群雄割拠の様相を呈していた。中予地方をかろうじて押さえる河野氏に対し、南予には西園寺氏、喜多郡には宇都宮氏といった有力国衆が独自の勢力を築いていた 1 。さらに国外からは、西に周防の大内氏、東に阿波・讃岐の細川氏、南に土佐の一条氏といった大勢力が絶えず圧力を加えており、伊予の国衆は常に複雑で不安定な情勢下での舵取りを迫られていた 5 。

通森の父・通運の時代から、戒能氏の所領は常に軍事的緊張に晒されていた。特に、隣接する久万山（現在の上浮穴郡）に本拠を置く大除城主・大野利直とは度々衝突しており、天文2年（1533年）には、通森も父と共に大野氏の攻撃を撃退した記録が残っている 2 。この戦いでは、同じく河野家臣である平岡氏らの支援を受けており、家臣団内部での連携と対立が常態化していたことが窺える。通森は、このような絶え間ない緊張の中で、一人の武将として成長していったのである。

第二節：天文年間の動乱 ― 大野利直との死闘（1553年頃）

戒能通森の名を後世に伝える最大の武功が、天文22年（1553年）頃に起こった大野利直との合戦である。この戦いは、彼の武勇と戦略眼を示すと同時に、当時の河野家臣団が抱える根深い内部対立を象徴する事件でもあった。

合戦の背景 ― 河野家臣団の内部対立

この合戦の直接的な原因は、単なる領地争いに留まらない。史料を深く読み解くと、その根源には河野家の有力家臣である大野氏と平岡氏の間の深刻な確執が存在したことがわかる 8 。ある史料では、両氏の対立は寒水（現在の地名は不詳）付近の知行（領地）を巡る争いであったと示唆されている 15 。戒能氏は平岡氏の与党、すなわち同盟関係にある一派であったため、大野利直による戒能領への攻撃は、実質的に平岡派勢力そのものに対する攻撃であった 8 。この戦いは「大野氏対戒能氏」という二者間の構図ではなく、「大野派対平岡・戒能派」という、河но家中を二分しかねない派閥闘争の様相を呈していたのである。

合戦の経過 ― 小手ヶ滝城から大熊城へ

天文22年（1553年）、大野利直は周布郡剣山城主・黒川通俊と兵を合わせ、戒能氏の居城である小手ヶ滝城に攻め寄せた 7 。大野軍は力攻めだけではなく、巧みな計略を用いて城の水の手（水源）を断つことに成功する 7 。生命線を絶たれた小手ヶ滝城は長期籠城が不可能となり、城主であった戒能通運（あるいはこの時すでに家督を継いでいた通森）は、兵力を温存するため、属城である大熊城への戦略的撤退を決断する 7 。

勢いに乗る大野軍は、退却する戒能勢を追って大熊城に迫るが、ここから戦況は劇的に一変する。大熊城は標高850メートルを超える、四国でも屈指の険峻な山城であった 7 。この圧倒的な地理的優位性を最大限に活用した戒能勢の激しい抵抗の前に、大野軍は攻めあぐね、多大な損害を出し、ついに撤退を開始した 7 。

追撃と勝利

通森はこの好機を逃さなかった。撤退する大野軍に対し、城から打って出て猛然と追撃を開始する。この追撃戦において、大野方の将であった黒川通俊は討ち死に（一説には馬を射られて自刃）し、総大将の大野利直も辛うじて本拠地である久万山へと逃げ帰った 7 。

この一連の戦いは、戒能通森の武将としての勇猛さを示す逸話として語られることが多い。しかし、その背後には、より深い戦略性が隠されている。小手ヶ滝城と大熊城の関係は、平時の政務や居住に用いる「居館・平時の城」と、有事の最終防衛拠点である「詰城（つめのしろ）」という、戦国時代の典型的な防衛システムを構成している。小手ヶ滝城の弱点（水の手）を突かれた際に、いたずらに玉砕を選ぶのではなく、より堅固な大熊城へ計画的に兵を退き、敵の疲弊を待って反撃に転じるという判断は、単なる奮戦ではなく、周到に準備された防衛戦略が功を奏した結果と評価できる。この勝利は、通森個人の武功に留まらず、彼の派閥である平岡党の政治的勝利でもあり、河野家中のパワーバランスを維持する上で極めて重要な意味を持つものであった。

第三節：主家の没落と忠臣の晩年（1585年～1587年）

天文年間の武功から約30年、日本の政治情勢は織田信長、そして豊臣秀吉によって大きく塗り替えられようとしていた。その波は、やがて伊予国にも容赦なく押し寄せる。

天正の陣と降伏

天正13年（1585年）、天下統一を目前にした豊臣秀吉は、土佐の長宗我部元親が推し進めていた四国平定を覆すべく、毛利輝元、小早川隆景らを総大将とする10万を超える大軍を四国へ派遣した。世に言う「天正の陣」である 2 。この時、伊予国に侵攻してきた小早川軍の圧倒的な兵力の前に、主君・河野通直は戦わずして降伏する道を選んだ。これを受け、家臣である戒能通森も主君の決定に従い、居城を開城して小早川隆景に降った 2 。

安芸竹原への随行と忠義

河野氏は、この降伏によって伊予国における大名としての地位を完全に失った。主君・通直は、小早川隆景の庇護のもと、その本拠地である安芸国竹原（現在の広島県竹原市）へ移ることになる 2 。主家が滅亡し、多くの家臣が離散、あるいは新たな領主に仕官する道を選ぶ中、戒能通森は主君を見捨てることなく、安芸竹原まで随行し、その身辺の保護に専念したと伝えられている 2 。これは、自らの利害よりも主君への忠誠を重んじた行動であり、戦国武将の生き様として、極めて義に厚いものであったと評価される。

この忠義の行動は、単なる感情的な美談に終わらない。新たな支配者である小早川氏、ひいては豊臣政権に対して、戒能氏が「無害」かつ「義理堅い」一族であるとの印象を与える上で、極めて有効な政治的行動であった可能性が高い。結果として、この忠義が、後の戒能一族の存続を許される一因となったとも考えられる。

伊予への帰郷と最期

主君・通直の身の上が竹原で定まった後、通森は故郷である伊予へと帰郷した。そして、かつての所領であった浮穴郡大熊の国木邸に隠棲し、二度と表舞台に出ることなく、終生門を出ずに静かに余生を送ったと墓石の碑文には記されている 2 。そして天正15年（1587年）、主君・河野通直が竹原で没したのと奇しくも同じ年に、通森もまた病により71年の生涯を閉じた 2 。その法名は「通玄院殿」といい、遺骸は当初、安芸の安国寺の塔頭（小寺院）である顕乾寧院に葬られた 2 。

第三章：戒能通森の拠点 ― 山城の戦略的活用

戒能通森の武功を支えたのは、彼が拠点とした二つの山城、小手ヶ滝城と大熊城の巧みな連携活用であった。これらの城郭の構造と立地を分析することで、彼の軍事思想の一端を垣間見ることができる。

第一節：小手ヶ滝城（現・東温市）

小手ヶ滝城は、標高529メートルの山に築かれた城郭である 18 。ここは戒能氏の平時における政治・生活の拠点、すなわち居城であったと考えられる。近年の調査では、山頂の主郭と、その北東下に広がる長い二郭から構成されていることが確認されている 18 。特に二郭の側面には、比較的整った石を利用した石積みが残存しており、主郭部には建物の基礎となった礎石らしき平たい石も点在していることから、相応の規模の建造物が存在したことが窺える 18 。

しかし、この城は大野利直との合戦で水の手を断たれており、長期的な籠城戦には脆弱性があった 17 。このことから、小手ヶ滝城は麓の所領を支配するための拠点としての機能が主であり、大規模な敵の侵攻に対しては、より堅固な防衛拠点へと移行する前提で設計されていた可能性が高い。

第二節：大熊城（現・東温市）

大熊城は、標高856.2メートル、麓からの比高（高低差）が約600メートルにも達する、四国でも有数の高地に築かれた天然の要害である 7 。その地理的条件から、土佐国境に近い久万山方面からの敵に対する最前線の防御拠点であり、同時に小手ヶ滝城が危機に陥った際の最終防衛拠点、すなわち「詰城」としての役割を担っていた 19 。

城の構造は、最高所にある「一の森」と呼ばれる主郭と、その西に位置する「二の森」と呼ばれる二郭を中核としている 16 。主郭は三段の小さな曲輪で構成され、周囲は急峻な崖に囲まれている。さらに、防御の要となる主郭の東側と南側には堀切（山尾根を断ち切る空堀）が設けられ、敵の侵攻を阻む工夫が凝らされていた 16 。

大野利直の大軍がこの城を攻めあぐね、撤退に追い込まれたのは、まさにこの地形の険しさと、それを活かした防御施設の賜物であった 7 。戒能通森の戦略は、この二つの城の特性を深く理解し、状況に応じて使い分けるという、高度な城郭活用術に基づいていたのである。

第四章：後世への影響と遺産

戒能通森の生涯は、天正15年（1587年）に幕を閉じた。しかし、彼が遺したものは、武勇伝や忠義の物語だけではない。彼の一族は戦国の動乱を生き抜き、その血脈と記憶は現代にまで確かに受け継がれている。

第一節：一族の存続と子孫の動向

戦国時代、主家が滅亡すれば、その家臣一族もまた離散・滅亡の危機に瀕するのが常であった。しかし、戒能氏はその危機を乗り越え、家名を存続させることに成功した。その背景には、通森の忠義と、時代の流れを的確に読んだ穏健な降伏という決断があったと考えられる。

通森の長男・通次は広島にて若くして亡くなったが、次男の戒能通邑（みちむら）が家を継いだ 2 。通邑は武士の身分を捨てて帰農する道を選び、江戸時代には旧領である井内村の庄屋を務めるなど、地域の有力者として一族の基盤を固めた 2 。これは、戦国大名の滅亡後、その家臣一族がたどる典型的な生存戦略の一つであり、通森の忠義が新領主からの信頼を得て、こうした軟着陸を可能にした側面もあったと推察される。

戒能氏の血筋はその後も絶えることなく、分家を重ねて繁栄し、近代に至るまで続いた 2 。特筆すべきは、戦後の日本を代表する法学者の一人であり、東京大学名誉教授でもあった戒能通孝（かいのうみちたか、1908-1975）が、この戒能通森の末裔であることである 10 。一人の戦国武将の決断が、数百年という時を超え、学問の世界にまでその影響を及ぼしていることは、歴史の持つ深い連続性を感じさせる。

第二節：墓所と大通庵

戒能通森とその一族の記憶は、彼らが暮らした東温市の地に、今もなお形として残されている。その中心となるのが、戒能一族の菩提寺である大通庵（だいつうあん）である。

墓所の変遷と大通庵の建立

通森の墓は、当初葬られた安芸国竹原の安国寺塔頭・顕乾寧院が後に廃絶したため、一族の尽力により、大正八年（1919年）に子孫が暮らす伊予国井内（現在の東温市井内）の「大通庵」に改葬された 2 。この大通庵は、通森の死後、その冥福を祈るために子孫（『戒能略譜』によれば与惣左衛門通定）が建立した庵が始まりである 2 。現在も戒能一族の墓所として大切に守られており、境内には通森自身の墓石のほか、一族歴代の墓や供養塔である宝篋印塔が数多く立ち並んでいる 20 。

地域の記憶としての桜

大通庵の存在を地域に広く知らしめているのが、墓地の一角にそびえ立つ一本の桜の木である。この桜は樹齢200年以上と推定されるエドヒガンザクラの古木で、「大通庵エドヒガンザクラ」として東温市の天然記念物に指定されている 20 。高台に位置するため、春になると淡紅色の花が遠方からでもよく見え、多くの人々がその美しい姿に心惹かれる 22 。この桜は、単なる名木としてだけでなく、戒能通森という郷土の武将とその一族の歴史を、今に静かに語り継ぐ地域のシンボルとなっているのである。

結論

戒能通森は、永正から天正にかけての戦国乱世を駆け抜けた、伊予国を代表する武将の一人である。彼の生涯を多角的に分析した結果、その人物像は以下の三つの側面から総合的に評価することができる。

第一に、**勇猛果敢な「武将」**としての側面である。天文年間に、自領に攻め寄せた大野利直の大軍を、小手ヶ滝城と大熊城という二つの城の特性を最大限に活かした巧みな戦術と、卓越した地理眼によって撃退した武功は、彼の軍事指揮官としての才能を如実に物語っている。

第二に、**忠誠心に厚い「家臣」**としての側面である。天正の陣により主家・河野氏が滅亡した後も、多くの家臣が離散する中で主君・通直に寄り添い、安芸竹原での不遇の時代を支え続けた姿は、武士の道徳が重んじられた当時においても、鑑とされたであろう忠義の精神を示している。

第三に、**一族の未来を切り拓いた「当主」**としての側面である。彼の忠義は、結果として新支配者からの信頼を勝ち取り、また時代の流れを見極めた降伏という現実的な決断は、戒能家を滅亡の淵から救った。その結果、一族は江戸時代には庄屋として地域社会に根を下ろし、さらには近代に至るまでその血脈を後世に伝える礎を築くことができた。

戒能通森の生き様は、戦国乱世における地方武将が直面した、武勇による生存競争、主君への忠誠、そして一族存続のための現実的な政治判断という、複雑で多面的な課題を私たちに鮮やかに示してくれる。彼の名は、故郷である東温市の歴史の中に、そして大通庵に咲き誇る桜の記憶と共に、今なお深く刻み込まれているのである。

引用文献

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戒能通森 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%92%E8%83%BD%E9%80%9A%E6%A3%AE
特集「湯築城資料館企画展」講演記録 - 河野氏家臣団の群像 https://keifu2gami.com/wp-content/uploads/2023/10/uminotamifutagami_11.pdf
愛媛県のご先祖調べ https://www.kakeisi.com/survey/survey_ehime.html
三河野氏の衰退 - データベース『えひめの記憶』｜生涯学習情報提供システム https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/62/view/7847
一中世城郭の形成 - データベース『えひめの記憶』｜生涯学習情報提供システム https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/62/view/7861
大熊山へ行こう！ https://oyamaeiko1.web.fc2.com/ookuma/index.html
第三章大除城と大野氏 https://www.kumakogen.jp/uploaded/attachment/9613.pdf
大野直之（おおのなおゆき） | ぬるま湯に浸かった状態 https://ameblo.jp/syunpaturyoku/entry-10803243566.html
河野氏 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E9%87%8E%E6%B0%8F
河野通直公の墓へ | かまのん紀行 https://ameblo.jp/threehouse2019/entry-12835914181.html
【愛媛県の歴史】戦国時代の"愛媛"では何が起きていた？河野氏や長宗我部氏 - YouTube https://www.youtube.com/watch?v=5t4fgIJ-M10
二南予の戦雲 - データベース『えひめの記憶』｜生涯学習情報提供システム https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:2/62/view/7858
大宝寺と岩屋寺と久万郷｜ねこ先生の郷土史 - note https://note.com/kidszemi/n/nab23fd36629c
中世伊予の山方領主と河野氏権力 - 愛媛大学教育学部 https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2003/pdf36-1/2.pdf
伊予大熊城(川内町)[縄張図あり] - 城郭放浪記 https://www.hb.pei.jp/shiro/iyo/kawauchi-ohkuma-jyo/
大熊山へ行こう！登山道案内山頂から最高峰へ https://oyamaeiko1.web.fc2.com/ookuma/a_3.html
伊予小手ヶ滝城[縄張図あり]-城郭放浪記 https://www.hb.pei.jp/shiro/iyo/kotegataki-jyo/
大熊城跡(おおくまじようあと)とは？意味や使い方 - コトバンク https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A7%E7%86%8A%E5%9F%8E%E8%B7%A1-3093893
東温市の文化財 https://www.city.toon.ehime.jp/soshiki/23/2007.html
伊予の隅々：東温市（旧・川内町） http://www.kotaro-iseki.net/sumizumi/07-kawauchi.html
大通庵 – とうおん旅あそび一般社団法人東温市観光物産協会東温市の自然・みどころ・観光情報 https://toon-kanko.jp/daitsuuan/

戒能通森