最終更新日 2025-08-16

紅葉賀

名香「紅葉賀」は源氏物語に由来する伽羅の苦甘の香。武将はこれを権威と教養の象徴とし、蘭奢待の如く政治に活用。武と雅を統合した天下人の理想を映す。
紅葉賀

天下人の掌中の雅:戦国時代における名香「紅葉賀」の価値と文化的意義

序章:一木に宿る歴史の香り

名香「紅葉賀」は、単なる香りの良い木片ではない。それは『源氏物語』の雅な世界、室町将軍の権威、そして戦国武将の野心と教養が凝縮された、歴史の結晶である 1 。この一木をめぐる物語を「戦国時代」という視点から徹底的に解き明かすことが、本報告書の目的である。

血で血を洗う戦乱の世に、なぜ武将たちはか弱くも奥深い香りを求めたのか。香木、とりわけ「紅葉賀」のような物語を宿す名香を所有し、その香りを聞くという行為は、彼らにとって何を意味したのか。それは、武力のみでは掴むことのできない「天下」の文化的側面を掌握し、自らの支配の正当性を世に知らしめるための、高度に戦略的な営為ではなかったか。本報告書は、この問いを深く探求するものである。

第一章:名香の誕生 ― 東山文化の精華として

「紅葉賀」が戦国武将の渇望の対象となる以前、その価値は室町時代の東山文化の中で確立された。それは、古典文学の権威と、新たに体系化された芸道「香道」の規範が交差する点に誕生した、文化的な至宝であった。

第一節:『源氏物語』の世界観と香銘

「紅葉賀」の銘は、日本文学の最高峰である『源氏物語』第七帖「紅葉賀」に由来する 1 。この帖では、主人公光源氏が朱雀院の行幸に際し、清涼殿の前庭で紅葉を冠に挿して雅やかに舞楽「青海波」を舞う、物語屈指の華麗な場面が描かれている 3 。この、宮廷文化の栄華と光源氏の類稀なる美しさが結晶した一場面を、香木の名に冠したのである。

この命名行為の背景には、室町時代に成熟した高度な美意識が存在する。平安貴族にとって香は、衣服に焚きしめたり、部屋に薫らせたりと、生活空間を彩る実用的な側面が強かった 6 。しかし、室町時代になると、物に文学的な物語性を付与し、その背景世界ごと享受することで価値を高めるという美学が発達する。香木に物語の一場面を名付ける行為は、その香りが持つ感覚的な魅力に、古典文学の権威と情景を重ね合わせる、極めて洗練された文化的営為であった 9

香りのような嗅覚を通じた体験は、本質的に主観的で言葉による表現が難しい 9 。その捉えどころのない価値を、誰もが知る古典文学の権威と結びつけることで、客観的で共有可能なものへと昇華させる。すなわち、香銘とは、香木が持つ言葉にし難い素晴らしさを、『源氏物語』の誰もが理解できる「雅」という価値基準に「翻訳」し、その価値を社会的に固定化するための装置であった。これにより、香木は単なる芳香を放つ物質から、文化的な価値を内包した「名物」へとその地位を高めたのである。

第二節:足利義政と「六十一種名香」の制定

「紅葉賀」が公式に名香としての地位を確立したのは、室町幕府八代将軍・足利義政の治世下であった。東山文化が爛熟する中で、香は仏事における荘厳や貴族の遊びといった旧来の役割から、精神性を重んじ、厳格な作法を持つ芸道、すなわち「香道」として体系化された 6

この歴史的な事業の中心となったのが、義政の命を受けた二人の人物であった。一人は、当代随一の文化人であり、公家文化の正統な継承者であった三条西実隆。もう一人は、義政に仕える同朋衆であり、武家社会における文化の担い手であった志野宗信である 1 。彼らは、婆娑羅大名として知られる佐々木道誉が蒐集したものを含む足利将軍家所持の膨大な香木と、三条西家に伝来した香木を鑑定し、分類・整理した 13 。この作業の集大成として、至高の香木群「六十一種名香」が選定され、我が国の香文化における絶対的な規範として尊重されることとなった 1 。「紅葉賀」もこの時、正式にその一つとして列せられたのである。

香木の分類基準として定められたのが「六国五味」である。これは、香木を産地や香質によって六種類(伽羅、羅国、真南蛮、真那伽、佐曽羅、寸門陀羅)に大別し、その香りを五つの味覚(甘、酸、辛、鹹、苦)になぞらえて表現する鑑賞法である 6 。この分類において、「紅葉賀」は最高位である

伽羅 に分類され、その香質は 苦味 甘味 を主体とする、複雑で奥深いものと定義された 6

この香道の成立過程そのものが、公家文化の権威を武家が継承し、自らの価値観の下で再編していく歴史的プロセスを象徴している。武家の棟梁たる義政が主導し、公家の権威(三条西実隆)と武家の実践者(志野宗信)を動員することで、香道は公家を源流とする「御家流」と武家を担い手とする「志野流」という二大流派を生み出した 12 。これは、武士階級が単なる軍事力だけでなく、文化の担い手としても社会の頂点に立つことを宣言するものであった。

以下の表は、「六十一種名香」における「紅葉賀」の位置づけを、他の著名な名香と比較して示したものである。これにより、「紅葉賀」が天下に名だたる香木群の中で最高級の格付けを与えられていたことが明確に理解できる。

表1:六十一種名香(抜粋)と「紅葉賀」の位置づけ

銘(通称)

分類(六国)

味(五味)

由来・特記事項

東大寺(蘭奢待)

伽羅

-

正倉院蔵。天下第一の名香と称される。

法隆寺(太子)

伽羅

-

法隆寺伝来。聖徳太子にちなむとされる。

紅葉賀

伽羅

苦甘

『源氏物語』第七帖に由来する。

初音

伽羅

-

『源氏物語』第二十三帖に由来。伊達家・細川家等に分蔵された。

白菊

伽羅

-

後水尾天皇命名。細川家伝来。

花宴

伽羅

辛酸

『源氏物語』第八帖に由来する。

この一覧が示すように、「紅葉賀」は、織田信長が切り取ったことで知られる「蘭奢待」と同じく、最高級の「伽羅」に分類されている。また、『源氏物語』を由来とする香銘が他にも存在し、一つの雅なカテゴリーを形成していたことがわかる。戦国武将たちは、「紅葉賀」を単体としてではなく、こうした「名香の系譜」に連なる至宝として認識し、その価値を評価していたのである。

第二章:価値の転換 ― 戦乱の世における文化財

室町幕府の権威が地に墜ち、応仁の乱を境に世が戦乱に突入すると、「紅葉賀」をはじめとする文化財の価値は大きく変容する。それらはもはや、将軍家の書院を飾る静的な美術品ではなく、実力者がその権威と教養を示すための、動的な価値を持つ「名物」として、武将たちの間で激しく争奪される対象となった。

第一節:権威の象徴としての「名物」

足利将軍家の衰退は、彼らが代々蒐集してきた「東山御物」と呼ばれる第一級の美術品群の流出を意味した 17 。これらの名物は、戦国大名たちの手に渡り、新たな意味を帯びることになる。それは、土地や金銀といった物理的な富を超え、所有者の文化的権威と支配の正当性を証明する象徴物としての価値であった 19

戦国時代において、茶入「九十九髪茄子(つくもなす)」のような名物茶器が、一城に値すると見なされたように、名香もまた同等の至宝とされた 17 。優れた香木は、戦功に対する最高の恩賞として与えられ、武将たちの飽くなき所有欲を掻き立てたのである 6 。名香を所有することは、単に財力を示すだけでなく、東山御物の正統な継承者であることを暗に主張する行為でもあった。

第二節:武将に必須とされた「教養」

戦国武将が求めたのは、名物という「物」だけではなかった。それを真に理解し、使いこなすための「教養」こそが、一流の将たる所以であった。『孫子』のような兵法書が実戦の教科書であったと同時に、『源氏物語』や『古今和歌集』といった古典文学の知識は、彼らにとって必須の教養だったのである 21

この教養は、単なる個人的な趣味の域に留まらなかった。公家との交渉や、大名間の社交の場であった連歌会などにおいて、古典の知識は円滑なコミュニケーションと自らの格を示すための実用的なスキルであった 24 。豊臣秀吉や徳川家康といった天下人が、多忙な合戦の合間を縫って熱心に『源氏物語』の講釈を受けていたという事実は、彼らがこの物語の世界観を深く理解し、自らの権威に取り込もうとしていたことを雄弁に物語っている 22

このような文化的背景を鑑みれば、戦国武将にとって「紅葉賀」の価値は、その香りの素晴らしさだけに留まらなかったことがわかる。むしろ、その背景にある『源氏物語』の典雅な物語性を理解し、香会などの場で披露することによって、自らの深い教養を周囲に誇示できる点にこそ、その真価があった。香会で「紅葉賀」を焚き、その由来を語ることは、単に高価な香木を所有していることを見せびらかすのではなく、「自分はこの香木に込められた文学的背景を理解している教養人である」と宣言する行為に他ならなかった。これは、武力一辺倒ではない、文化的正統性を持った支配者としての自己を演出し、他者を心服させる上で、極めて効果的な手段であった。

第三節:事例研究:織田信長と蘭奢待

戦国時代における名香の価値を象徴する最大の事件が、天正2年(1574年)の織田信長による蘭奢待の切り取り(截香)である 25 。東大寺正倉院に勅封されてきた天下第一の名香「蘭奢待」は、天皇の許可なくしては触れることさえ許されない神聖な宝物であった。信長は、正親町天皇から勅許を得るという正規の手続きを踏むことで、この禁忌を破った 27

この行為の意図については、天皇への威圧説、かつて蘭奢待を切り取った足利義政を超える権威の誇示説など、様々な解釈がなされている 25 。しかし、いずれの説を採るにせよ、これが自らを天下の実質的支配者として天下に知らしめるための、計算され尽くした政治的パフォーマンスであったことは疑いようがない 29

信長のこの行動は、他のすべての名香の価値を再定義するほどのインパクトを持った。蘭奢待の截香は、「最高の名香に触れることは、最高の権力者のみに許された特権である」という事実を、天下に強烈に可視化したのである。これにより、蘭奢待を頂点とする「六十一種名香」の序列は、そのまま権力の階梯と結びつけて認識されるようになった。したがって、「紅葉賀」のような名香を所有することは、直接的に蘭奢待に触れることはできなくとも、その権威のヒエラルキーの中に自らを位置づけ、天下人への道を志向する野心の表明ともなり得たのである。信長の行為以降、名香の所有は、単なる文化趣味から、より先鋭化された政治的意味合いを帯びるようになったと考えられる。

第三章:「紅葉賀」と戦国武将 ― 史料から辿る蓋然性の探求

「紅葉賀」が戦国時代に具体的に誰の手にあったかを示す直接的な史料は、現在のところ確認されていない。しかし、当時の武将たちの香文化への傾倒ぶりや、名香の伝来に関する周辺的な記録を丹念に追うことで、その蓋然的な所持者像を浮かび上がらせることは可能である。

第一節:名香を愛した武将たち

戦国の世には、香を深く愛し、その蒐集と鑑賞に情熱を注いだ武将が数多く存在する。

筆頭に挙げられるのが、仙台藩初代藩主・伊達政宗である。政宗は茶道のみならず香道にも深く通じ、京の公家と香席を共にした記録も残る 31 。彼が細川家から入手したとされる一木の伽羅に、能の謡曲『兼平』の一節「憂きを身に積む柴舟や、焚かぬ前より焦がるらん」から「柴舟」と自ら命名した逸話は特に名高い 32 。これは、政宗が香木の香質を的確に捉え、豊かな古典の素養を背景に雅な銘を付けるほどの、極めて高い見識を持っていたことを示している 34

天下人・徳川家康もまた、香への執着が人一倍強かったことで知られる。徳川美術館には家康ゆかりの膨大な香木コレクションが残り、彼が自ら香りを調合するためのレシピを書き残していたほどである 37 。天下統一の過程で、各地の名物が家康の下に集積したことを考えれば、彼のコレクションに「紅葉賀」のような第一級の名香が含まれていた可能性は極めて高い。

その他、茶人としても名高い細川忠興(三斎)も香を愛した文化人であり、後水尾天皇から「白菊」の銘を賜った名香の逸話が伝わっている 34 。また、香は武士の美学とも深く結びついていた。大坂夏の陣で討死した豊臣方の若武者・木村重成が、出陣に際して兜に香を焚きしめていたという逸話は、その首実検の際に敵将である家康をも感嘆させたと伝えられる 19 。これは、香りが死をも覚悟した武士の潔さや品格を象徴するものであったことを示している。

第二節:香道の家元と武家社会

戦国大名が香の道を究める上で、指南役として重要な役割を果たしたのが、志野流や御家流といった香道の家元であった 20 。彼らは大名たちに請われて香の作法を教え、所持する香木の鑑定を行い、香会を取り仕切った 41

武家社会に根差した志野流はもちろんのこと、公家を源流とする御家流の家元・三条西家もまた、多くの武将と交流を持った 7 。三条西家のような伝統的な権威を持つ公家から指南を受けることは、武将が自らの文化的な洗練度を高め、社会的ステータスを向上させるための重要な手段であった。また、それは朝廷との繋がりを確保し、自らの支配の正当性を補強する上でも有効であった。

第三節:「紅葉賀」の蓋然的所持者

「六十一種名香」の多くは、もともと足利将軍家の所蔵品(東山御物)であった 14 。したがって、「紅葉賀」もまた、応仁の乱以降の混乱の中で将軍家の手を離れ、いずれかの有力な戦国大名の手に渡ったと考えるのが最も自然な推論である 17

その具体的な所持者として、まず考えられるのは、天下統一の過程で各地の名物を蒐集した織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康といった天下人たちである。特に家康の膨大なコレクションの中に含まれていた可能性は高い。

また、細川家、加賀の前田家、仙台の伊達家、阿波の蜂須賀家など、文化的に洗練され、強大な財力と政治力を持った有力大名家も所持者候補として挙げられる 34 。これらの大名家は、それぞれ独自の優れた美術品コレクションを形成しており、その中に「紅葉賀」が秘蔵されていたとしても何ら不思議はない。

しかしながら、「紅葉賀」の戦国期における具体的な所蔵者を示す直接的な史料が見当たらないという事実自体が、戦乱の世の様相を物語っている。茶入「つくも茄子」のように所有者が克明に記録されている名物も存在するが 17 、香木はそれらとは異なる特性を持つ。使用すれば微量ながら減少し、分割して分け与えることも可能である。この物理的特性が、所有の来歴を追跡しにくくしている一因であろう。さらに、下剋上が常の時代において、至宝の所有を公にすることは、他者からの略奪の標的となるリスクを伴う。そのため、所有の事実は意図的に記録に残されなかった可能性も否定できない。したがって、史料の不在は、単なる「不明」を意味するのではなく、戦国時代における文化財の所有がいかに流動的かつ秘匿性の高いものであったかを示す、逆説的な証拠と解釈することも可能なのである。

第四章:「紅葉賀」の神髄 ― 伽羅という至宝

「紅葉賀」の価値を理解する上で、その材質である「伽羅」の特性を知ることは不可欠である。伽羅は単なる香木の一種ではなく、数ある香木の中でも王者の地位を占める、特別な存在であった。

第一節:香木の王「伽羅」の特性

伽羅とは、沈香の中でも特に質が優れた最高級品にのみ与えられる特別な呼称である 45 。その産地はベトナムのごく限られた地域とされ、ジンチョウゲ科の樹木が傷つき、それを治癒するために分泌した樹脂が、数百年という長い年月をかけて土中などで熟成し、奇跡的に変質したものと考えられている 8 。その生成メカニズムには未だ謎が多く、人工的に作り出すことは不可能である。この絶対的な希少性から、その価値は時に金を凌ぐとされ、現在ではワシントン条約によって国際的な取引が厳しく制限されている 47

伽羅の物理的な特徴として、常温でも甘く優雅な芳香を放ち、質感は他の沈香に比べてやや柔らかく、爪で傷がつくほどであるとも言われる 47 。その香りは、含有される油分の色合いなどから「緑油」「黒油」「紫油」といった種類に分類され、それぞれに異なる趣を持つ 49 。「紅葉賀」が「苦甘」という味で評価されていることは、単一的な甘さではなく、ほのかな苦みを伴うことで、より一層の深みと複雑さ、そして気品を備えた香りであることを示唆している。

第二節:香を聞くということ

香道の世界では、香りを「嗅ぐ」とは言わず、「聞く」と表現する 51 。これは、単に鼻で匂いを感じるのではなく、心を澄まし、精神を集中させて香りの奥にある無限の世界を感じ取るという、禅の思想にも通じる精神的な営為であることを示している 6

香りの鑑賞においては、主観的になりがちな印象を客観的に共有するため、五味(甘・酸・辛・鹹・苦)という味覚の言葉を借りて表現する手法が確立された 11 。参加者は、掌中の香炉から立ち上る一縷の香りに全神経を集中させ、その香りが持つ複雑な香味を心の中で五味に分解し、批評し合う。

戦国の武将たちが香を聞く時間は、絶え間ない戦の緊張から解放され、自らの内面と静かに向き合うための、貴重なひと時であったに違いない。同時に、香の異同を当てたり、その香銘の由来を語り合ったりする知的遊戯を通じて、互いの感性を磨き、教養を競い合う、洗練された社交の場でもあった 9 。彼らは「紅葉賀」の香を聞きながら、その苦みと甘みの奥に、光源氏の舞う姿と滅びゆく王朝の哀愁、そして自らが目指す天下の栄華を重ね合わせていたのかもしれない。

終章:時代を超えて香るもの

戦国時代の武将にとって、名香「紅葉賀」は、単なる贅沢品や趣味の道具ではなかった。それは、彼らの野心と美学が交錯する、多層的な意味を内包した至宝であった。

第一に、それは足利将軍家から続く 権威の継承の証 であった。東山御物の一つである「紅葉賀」を所有することは、旧来の権威を受け継ぎ、新たな支配者となるにふさわしい器量を持つことを示す象徴的行為であった。

第二に、それは『源氏物語』に通じる 高い教養の証明 であった。その銘の由来を理解し、香会で語ることは、武力のみならず、文化や伝統をも統べる者としての正統性を内外に誇示する手段であった。

第三に、それは天下第一の香木「伽羅」を所有する 財力の誇示 であった。一木で城が立つとまで言われた名香の所有は、その者の経済力を雄弁に物語った。

そして最後に、それは乱世にあって 雅な精神世界を希求する心の拠り所 であった。一炷の香を聞く静謐な時間は、武将たちを束の間、血腥い現実から解放し、内面的な豊かさと向き合わせるための、不可欠な精神的装置であった。

すなわち、「紅葉賀」の所有は、武力による支配(武)と、文化による支配(雅)を統合し、真の天下人たらんとする戦国武将の理想を体現する行為であったと言える。

戦乱の世を奇跡的に生き延びた「紅葉賀」は、江戸時代を経て、近代には実業家・住友家のコレクションに加わり、現在は泉屋博古館に収蔵されている 1 。その本体は、美しい木目を持ち、刃物を入れることが叶わぬよう、和紙によって厳重に封印が施されているという 1 。その姿は、幾多の権力者の手を渡り、時代の変転を見つめてきた歴史の重みを、静かに、しかし雄弁に今に伝えている。一木の香木は、五百年以上の時を超え、我々に戦国武将たちの夢の跡を語りかけているのである。

引用文献

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  50. 6月の推奨香木は「ほのぼのと品の良さが薫る伽羅」 |山田眞裕(麻布 香雅堂 主人) - note https://note.com/yamadamasahiro25/n/n6b0115e97b49
  51. 平成十四年八月二十二日《木》 午後六時半開演 - 企画公演 香と能 その一 - 麻布香雅堂 http://www.kogado.co.jp/docs/monkou1.pdf
  52. 源氏香之図 http://inuiyouko.web.fc2.com/sirotae/j05/genjikou.html